セッションの場で行われる話し合い

実際のセッションを想定して、シナリオとしてわかりやすそうな白雪姫をチョイスしてみます。

白雪姫 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%99%BD%E9%9B%AA%E5%A7%AB

さて、白雪姫をTRPGのシナリオとした場合、誰がなんの役割を担うのか。ちなみに、ディズニー版ではなく、グリム童話版にある程度準拠した形とします。
GMはとりあえずNPCとしての王妃としましょう。PC1が白雪姫で、PC2以降は七人の小人を適当に、といったところでしょうか。PC4あたりに王子を配置してもいいかもしれません。
この時、PCサイドでは、各々勝利条件が異なります。勝利条件は、物語における達成目的、と表現してもかまいません。
白雪姫は生き延びることが初期の目的です(終盤は王妃への復讐に転化しているようですが)。七人の小人は、実は白雪姫を使って自分たちの生活を楽にすることが初期の目的です。王子に至っては、自分の嗜好(死体愛好)を満足させることだけが初期の目的です。
PCサイドの初期の勝利条件は、このままであれば、誰かの目的が達成した時、他の誰かの目的が達成しない構造になっています。白雪姫の目的と七人の小人の目的は場面的には合意しますが、白雪姫の立場からはいつまでも七人の小人の小間使いで居続ける理由はありません。そして、王子の目的が達成されている場合、白雪姫は死んでいる必要があり、白雪姫の目的とは相反しています。
ここで話し合いが行われた場合、どのような結末に至るでしょうか?


実際の結末はともかく、どのように話し合えばいいのか、という点において、「それぞれの勝利条件を達成する」ことを目的に据えたとしても、「初期に設定した勝利条件は、結末までそれを維持する必然性はない」としない限り、物語は関係者の利害を調整することもできず停滞してしまいます。再開されることすらないでしょう。物語としてはそれでいいのかもしれませんが、TRPGがゲームである以上、なんらかの終着点を見出す必要があります。
(まあ、物語が停滞するのが終了条件、という条件を付与してしまうと、それはそれで、という話になってしまいますが)
つまり、シーン制で言うところのクライマックスにおいて、各PCの勝利条件が達成される、というのは、ゲーム的には正しくても、物語的には実は難しいんじゃないのか、ということです。
(クライマックスシーンにリソースをつぎ込こむことを前提にしたロールプレイ支援システムであるエンゼルギアは、実はゲームというフレームワークのためにストーリーを犠牲にしてでもロールプレイを推奨しているという構造があるのではないか、なんてことも考えてしまいます。PCの利害調整を事前にして、勝利条件がデッドロックにならないようにすればいいのかもしれませんが……ともあれ、ストーリーを犠牲にしたロールプレイはロールプレイたりえるのか、というのは以前からの私の疑問です)


物語的には、PC1を軸に利害関係が調整されてしまえば、それ以外のPCの勝利条件は未達でもかまわない、とも言えます。実際、白雪姫のストーリーで、誰が一番得したのかといえば、状況的には王妃からの執拗な攻撃から逃れ反撃した白雪姫、ということになります。七人の小人も、王子ですら、初期の目的を叶えてはいません。
(もっとも、それが白雪姫が望んだ状況か、といえば、白雪姫は徹頭徹尾、どんな状況も望んでいない、とすら言えるかもしれません。が、これは物語の解釈の話で、そうなるともう別の話です。しかし、物語の解釈という形で発展性があるのは、物語としては成功なのかもしれません)


その他にも、対応として、「場面に応じてPCの目的を変更する」という手法も当然想定されます。初期条件で設定した目的が達成困難になったとしても、それは状況の変化に応じるものであり、状況の変化が発生している以上、目的もまた変化してもおかしくはないからです。
そう考えると、白雪姫が七人の小人の小間使いとなった場面でも、PCが、というよりはPLが、それぞれの状況において、相互協力的な目的、というよりは名目として、白雪姫は「住む場所と食事」を目的に設定し、七人の小人は「家政婦」を目的に設定した、のかもしれません。ゲーム的には、おそらくこの形になってくるのではないかという気がします。
言い方を変えると、TRPG的な「因果」においては、「原因によって結果が規定される」というよりは、「結果のための原因を規定する」という関係があるのかもしれません。言い方は悪いかもしれませんが、「結果のために原因を捻じ曲げてもかまわない」としてもいいかもしれません。
(もっともここで言う因果は物理現象を規定するわけではないので、本来の意味からはすでに外れていますが)


上述したいくつかの手法、「PC1の利害を軸にする」「PCの目的(という原因)を随時変更する」を組み合わせることによって、物語的なTRPGができる、のかもしれないし、他の方法があるのかもしれませんが、いわば「セッションログ」を「物語」に集約しようとした場合、やはり軸となる誰かは必要とされるんじゃないか、というのは思うところです。
ということは、「みんなが納得する話し合い」の前提には、「みんながなにに対して納得するのか」についての合意が必要であり、ここに「PC1の勝利条件を達成すること」を据えることで、物語的な協調が生まれるのではないか、というのが現時点での私のまとめになります。
途中ごちゃごちゃとわかりにくくなりましたが、まあそういうことです。