「甘えてくる奴に容赦はしねえ。
 助けを求められれば見捨てはしねえ。
 それが愛ってもんだろ?」
「あんたのはわかりづらいのよ」

「彼女よりも彼のほうが重要だ」
 彼のために彼女を失った少女にとって、その言葉は理解すら拒絶する響きを伴っていた。
「彼の生存のためには、彼女を失うことになっても仕方がない」
 仕方がないとはどういうことだろうか。彼女が死んだことが、天使化しかけた彼女を少女が殺したことが、仕方がないの一言で済まされるのだろうか。
「彼女は死んでも代わりはいるが、彼が死んでも代わりはいない」
 彼女の代わりなんてどこにもいないのに、この声の主はなにを言っているんだろうか。もし彼女の代わりがいると言うのなら……どうしていま、少女の隣には彼女がいないんだろうか。
「それではまるで、彼のために彼女が死んだようですね」
 別の声がそう答えるまで、少女はその可能性に気づきもしなかった。いまでは彼もまた、少女にとって大事な人になっていたから。
「否定はせんよ。私としては、失った以上のものを手に入れたのだから」
 そんな会話を聞き続けることができなくなって、少女はその場を逃げ出した。