セキュリティとコスト

リスクに対してコストパフォーマンスの優れた対策を打つことができればベストです。
ただしここでいうリスクは潜在リスクで、「損失になるかもしれない」可能性にすぎません。顕在化したリスクは、「確実に損失になる」ものです。
さて、システム設計者という立場から見た場合、積極的に排除すべきは後者で、前者は消極的に、あるいは余力があれば排除する、という重要度のつけ方になります。
困ったちゃんのまとめサイトを見ていて思うのは、この重要度のつけ方、取り方、その辺をまったく理解せずにシステムを批判している人がけっこういるんじゃないか、ということです。具体的にはゲヘナ近辺の話題になると、そう思うことが多いです。
システム、あるいはルール、もっといえば(会社で言えば経営レベルでの)全体設計思想において、リスクを過度に設定することはナンセンスです。リスク対策に100の労力を掛けたとして、リスクが顕在化した時に発生する労力が10なら、そんな対策は無駄なんです。


まあ、システム設計者が適切なリスクコントロールができているかどうか、その評価は非常に恣意的なものにしかならないので、適切値はあってないようなものだ、という前提もあります。問題は、問題が発生した現場でしか見えないし、見えたところで、それを問題だと認識しない人だって世の中にはいます。
設定がまずい、システムが悪い、だからセッションが失敗した、これだから○○はダメなんだ、という理屈。それはなにに比べての話でしょう。いいとか悪いとかいうからには、なんらかの比較対象、あるいは基準があるはずです。それが統計的な基準であれ心情的な基準であれなんでもかまいませんが、過度に理想化された(いわゆる完璧な)基準を元に批判していた場合、その批判は正しいと言えるんでしょうか?
「あのシステムならこうはならない」という理屈。部分最適という意味では最適化されたシステムは存在しうるでしょう。しかし全体最適という点において、完全なTRPGシステムなんてものはいまだかつて存在したことはないし、これからも存在することはありません。どんなシステムにも欠陥はあります。なぜなら無限のコストを投資することでしか完全なものは作れないし、無限のコストなんて存在しないからです。
セキュリティもそうです。「絶対にリスクが顕在化しないなんてことは絶対にない」ものです。


日本人の特徴、かどうかはわかりませんが、過度に潔癖症な部分があると思います。「理念上、そうでなければならないのだから、そうあるべきだ」という理屈がまかり通ってる気がします。自分自身も含めて。
そんなことはありえません。効果というのは、費用に見合った分しかないものです。ゲームだって、一時間やった人と十時間やった人では、ゲームに対する理解が異なるように、リスク対策も、コストを払った分しか効果がありません。
TRPGの場合、さまざまなリスクが想定されますが、設計思想によって、結果的にリスクを抱え込む構造になることがあります。それは、最優先事項を設計上優先したら、たまたまそういう欠点ができた、ということであって、それ以上のものではありません。欠点はどんなシステムにだってあるものです。
(居酒屋で酔っ払いに説教するような話なので、あまり意味はありませんが)


このあいだ面白い話を聞きました。優先事項という観点で見た場合、「お客さんに問題点を10個あげてもらって、優先順位が高いほうから3つ解決したら、7割の問題は解決している」という話です。
優先順位が高い、ということは、当然ながら、それだけ困っている、ということです。一番困っていることを解決して、二番目に困っていることを解決して、三番目に困っていることを解決したら、7割の問題は解決しちゃう。なるほどなあと。逆に言えば、優先順位が高い順に3つ解決しても、7割の問題が解決しない場合、問題が多すぎる(手の着けようがないぐらい)か、優先順位の設定がきちんとできていないということになります。つまり、どちらにしろ現状把握ができていない、ということなんですね。
四番目以下の問題は、(主にお金に)余裕があったら解決する、という程度の問題なわけです。で、無限にコストをかけることはできないので、それについては目をつぶるしかない。


ところが、目をつぶったところで問題がなくなるわけじゃないんですよね。なので、そうした問題をきちんと提示して、「このシステムにはこういう問題もありますが、それはこういうことをやるためです。悪用しないように」ぐらいのことを書けばいい。その上でそれを悪用するような人は、ただの○○です。
寡聞にして存じませんが、そうしたシステムの欠点、欠陥を堂々と謳ってるものってありますか? 私はあってもいいと思うんです。どんなシステムも美点を謳うことだけはやけに堂々としてますが、そういう欠点を堂々と謳ったっていいと思うんですけども。
欠点を提示できることこそ、システム設計者がきちんとしたバランス感覚を持った上でそれを選んでいるという、能力の証明でもあるように思うのです。そう単純にはいかないことなんでしょう、きっと。理由はわかりませんが。