(7)

 スポットライト。
 幸せになりたいと三度呟いて、彼女は泣いた。
「幸運なことが幸せなんじゃない。不運なことが不幸なことなんじゃない。私はただ、幸せになりたかっただけなんです」
 なにを、どう間違ったのだろう。彼女は幸運を手に入れた。しかし幸福を手に入れることはできなかった。
 だからこれは、きっと。彼女の過ちなのだ。
「彼を手に入れたかった。確かにそう、それが私の幸せだった。そうして私は彼を手に入れた。その心は永遠に手に入らないけれど」
 彼は、彼女ではない誰かを見ていた。彼の心には、その人だけがあった。
 だから彼女は、諦めていた。彼がその人が好きなら、私は諦めようと。
 彼と彼女は友人で、その人と彼女もまた、友人だったから。
 三角関係。言葉にすれば簡単だけど、自分がその中に組み込まれてみれば、簡単なんて言ってられない。
「彼女は死にました。彼の目の前で。そして、彼は心を閉ざしました」
 壊れた三角形は、二度と元には戻らない。
 彼はギアドライバー。彼女はナビゲーター。あの人は、ただの人。
 それは彼女の幸運で、勝利だったはず。彼女は彼と共に戦場に立ち、彼を手に入れた実感を味わった。
 しかしそれは、戦場だけのこと。戦闘が終わり、基地に帰れば、彼はあの人の話ばかりをする。
 彼女は、三角関係の中にあっても一人。
「立場が欲しかったわけじゃないんです。私は彼が欲しかったけれど、彼を望んでいたけれど、こんな形を望んでいたわけじゃないです」
 さめざめと涙を流しながら、彼女は俯く。
 幸せになりたかったと呟いて、彼女は声を殺した。
 暗転。