(13)

「選ばなければならないものは常に一つだ」
「一つ、ですか」
「そうだ。生きるか死ぬかだ」
「……選ぶ必要が?」
「ある。こともある。生きるということは、殺すということだからな」
「なぜですか?」
「お前の生存が他者の死の上になりたつことがある、ということだ。そう多くはないだろう。だが、お前の歩む道において、それは少ないものにはならない」
「そういうことになっている、ですか?」
「そうだ。お前が私の手を取り、生きることを選んだ時に、それは決まった。だから私は、こうしてお前に生き延び方を教えている」
「軍人……なんですよね? 先生は」
「そう呼ばれるものだったこともある。いまは国を捨てた。やがて全てを捨てることになるだろう」
「どうして?」
「どうして、とは?」
「なぜ、全てを捨てる、なんて言えるんですか?」
「執着がないからだろう。私のものと言えるものは、お前が最後だ」
「私は物じゃありません」
「そうだな」
「……先生は、訳がわかりません」
「お前のような小娘にわかられてたまるか」
「じゃあ、なんで私を拾ったんですか」
「なんで、とは?」
「私はあなたのなんなんですか?」
「さあな。私にもわからん」
「私は、先生に拾われなければ、廃棄処分されるところでした。そのまま死ぬんだと、そう思ってました。でも私は生きている。先生に助けられて」
「助けたわけではない」
「じゃあ」
「なぜもなにもない。理由はない。ただの気まぐれだ」
「……そんな」
「その程度のことで死なずに済むこともある。どうやってもどうにもならないこともある。それは選択ではなく、ただの運だな。どうにもならん」
「じゃあなんのために勉強したり訓練したりするんですか?」
「決まってる。それでも死にたくないからだ」