(15)
初弾は回避された。相対距離は3m程度しかないというのに、あっさりとかわしてくれる。とはいえ、完全機械化兵であれば、カタログスペックの内だが。
かわした勢いで突っ込んでくる完機を見つめながら、後ろに跳躍し距離を取る。それ以上の速度で突き進んでくる完機に威嚇射撃を行い、僅かながら速度を鈍らせる。
地に足がつくと同時に、完機が振り上げた手刀が喉元に迫る。容赦も躊躇もない。
のけぞってかわし、そのまま後転するように足を振り上げる。
完機はその足を手で受け止め、まずは足を叩き折ろうと拳を振るう。
狙いはつかないが、のけぞった姿勢のまま射撃。完機はこれを避けて足を離し、蜘蛛のように地に伏せた。
無理矢理体重移動させ、そのまま後転。着地点を狙って、完機が地を這うような回し蹴りを放つ。
こればかりは避けようもなく、甘んじて受け、転倒する。片手をついて、屈伸運動のみで再び体を宙に浮かせる。
天井に足を下ろし、そこに張り付くようにトリガーを絞る。一瞬で三発の弾丸を放ち、完機の動きを止めた。
天井を蹴り、前転の要領で回転し、完機の頭上に踵を落とす。
致命傷にはならない。しかし、隙を作るにはこれで十分。
体勢を崩した完機の頭蓋に向けて、残弾をすべて叩き込む。一発目は弾かれた。二発目はわずかにへこみを作った。三発目で亀裂を穿った。四発目が頭蓋を叩き割った。五発目で内部を破壊した。
それでも完機は、わずかに手を伸ばして腕を掴んできた。それを邪険に振り払い、マガジンを交換し、本来の目標に向ける。
「裁定者……貴様のお出ましか」
瑞穂基地G3司令ヴィヴリオ大佐は、努めて冷静にそう言った。地に倒れ伏した完機、桜花は動かない。脳を破壊されてしまった以上、再生もできないだろう。
「お前を殺しに来たよ、ヴィヴリオ。いままでヴリルのためによく働いてくれた」
ヴィヴリオを殺すことは、そうた易いことではない。見かけは少女でも、前大戦を生き抜いた天使の子だ。
だが、暗殺者にとっては、そんなことは問題にはならない。なぜならば、その手に持つ銃は、天使ですらも滅ぼせる代物なのだから。
「これが……あの人の決定なのか」
「そういうことになる。とはいえ、私は外参の身だ。ヴリルの中では新参者でね。こんな汚れ仕事以外は任されていない」
だから全体は知らない。知る必要もない。決められた通りに対象を暗殺すること。それだけがいまの仕事だ。
「まあ、君を殺すのはついでだよ。本来の目的は、この基地にいるひよっこどもだ」
「……!! まさか、貴様っ……!!」
「おっと。怒るなよ? それが私の仕事だというのは君も知っているだろう?」
だから裁定者などと呼ばれている。なにを裁く者なのか……ヴィヴリオは、それを十二分に知っている。
「では、さらばだ」
暗殺者はあっさりと引き金を絞り、ヴィヴリオの心臓を狙い違わず破壊した。
言葉もなく倒れ伏すヴィヴリオ。
本番はこれからだ。