(27−11)


 あいつが死んだ! あいつほどの人間でも死ぬことがあるとは!
「天使兵数百の群れに単機で突っ込んだんだ。しょうがねえっつか……そういうもんだろうと思うけどさ」
 飯島は、一人寂しく、撃墜されたシュネルギアの上に座っている。
「なあ、教官」
「なんだ」
 こちらの機体には損傷はない。だが戦闘能力はすでになかった。燃料切れは天使核を使用している以上ありえないが、弾薬切ればかりはいかんともしがたい。
「あいつはなにがしたかったんだろう?」
 そんなことは自分の知ったことではない。
「こうなることがあいつの望みだった。そう考えるしかない」
 自殺するように天使兵と戦ったことが? 戦果だけで見れば"英雄"と呼ばれるだけのものをあげたというのに、一様に"反逆者"の烙印を押され歴史の闇に葬られることが?
「大佐が基地を奪回して、こっちが出撃した直後に天使兵が襲ってきて……出来すぎだ、って考えるのは俺だけなのか?」
 その疑念はもっともだ。自分だってそう思う。だが、答えを知らないのは自分も同じだ。
「あいつが単独で動かせるシュネルギアに乗って、基地を再制圧しかけたところで天使兵が出てきて、なにもかも有耶無耶にして天使兵を迎撃しなきゃならなくなって……終わってみればあいつ一人だけが反逆者で、俺たちは騙されてたことになってる。……こんなの納得いくわけねえよ」
 撃墜されて、着地した時に舞い上がった砂礫が機体の上にも転がっている。飯島はそれを一つ手に取り、力なくあてもなく放り投げた。
「だが、不幸は一番少ない」
「だから納得いかねーんだけどさ」
 ぶつぶつと言いながら、飯島は立ち上がった。
「おい、花。いつまで寝てんだよ。帰ろうぜ」
 コクピットで気絶している花村を起こしに向かう。こいつらの悪運の強さは自分に匹敵するかもしれない。雑魚ではなく、主天使級ですら二桁もいたあの戦闘で、撃墜されておきながらなぜ生き残っているのか、不思議でならない。
 終わってみれば、すべてが綺麗に終わった。自分は生きていて、飯島も花村も生きていて、ヒルトも大佐も生きている。
 それはつまり、自分の目的はいまだに果たされていないということでもあるが。
「で、教官はどーすんの?」
 ふらつく花村に肩を貸しながら、飯島は器用に機体から降りていく。
「どうしたものかな」
 こちらも機体を降りて、一足先に回りこみ、飯島から花村を受け取る。見た目は華奢なのに、意外と肉付きがいい……と言ったら、花村は嫌そうな顔をするのだろうが。
「とりあえず基地に行くしかないんじゃ?」
 表向きはどうあれ、自分たちに処分が下されるのは間違いないだろう。正規軍でも反乱軍でもどちらでもいいが、完全機械化兵である自分は、軍のメンテナンスを受けなければ、すぐに活動限界が訪れてしまう。
 どういう形であれ、そこに戻るしかないことはわかっていた。
 こんな形で戻ることになるとは想像もしていなかった。
「そうだな。お前も一緒に乗るがいい。基地までは連れて行ってやる」
 へいへいと生返事を返して、飯島は花村を背負った。なんとも自然にそういうことをするものだと、飯島を見るたびに感心する。
 自分が特別飯島を気に掛けるのは、それがあるからかもしれない。飯島のその神経の細やかさが、自分にとって尊敬に値するからだろう。
 尊敬? 機械である自分が、人間である飯島を?
「笑えないジョーク、だな」
「ん? なんか言った?」
「いいや、なにも」
 結局自分はなにがしたいのだろう。この期に及んでそんなことを考えながら、自分の機体へと向かった。