ある作戦計画参加者の手記(3)

『シ号計画』

ミカドのお命が危ういという噂を聞く。この計画はそのために行われているのだとも。
神を生み出す計画といえば聞こえはいいが、なんのことはない、いま死に掛けているミカドを救済するために、ミカドを神にしてしまえ、ということらしい。
バカバカしい。ミカドはそもそも現人神ではなかったのか。
国粋主義になど興味はない。私はこの計画の成功にしか興味がない。
古代種は神の証明である。この説を学会で唱えた時、私は学会を追放された。あまりにも荒唐無稽すぎるというのが学会の反応だった。
では現実に存在する"角つき"をどう説明するというのだ。だが学会の連中にとって重要だったのはそんな現実ではなく、神などというものを扱うことによって神殿庁や帝家から目をつけられることを恐れたにすぎない。
結果的に私はここで、秘匿された状況ではありながら、自らの学説を証明する研究を行っている。他ならぬ神殿庁の依頼でだ。やはり正しい者は正しく報われる。
統一帝国との技術交流の中で、"天使化"というものの存在を知った私は、天使の血を引くものが天使になることが起こりうるのであれば、神の血を引くものは神になるのではないかという仮説を立てた。
しかしこれを検証する手立てはなかった。いま現在、神の血を引く者といえば帝家と高級貴族のみであり、そんな身分の高い方々を研究に使うことなど出来るはずもなかったからだ。
しかしこの現場では違った。研究のために、傍流とはいえ帝家に連なる者を下賜された。これを幸運と呼ばずなんと呼べばいいのか。
ただし下賜されたのはたった一名である。失敗は許されない。事は慎重に運ばなければならない。どんな些細なミスも許されない。
神経が痩せ細っていくのを感じる。だがいままでにない充実感もまた強く感じた。
名前がないとのことだったので、便宜上、その者の名を「神子」と呼ぶことにした。傍流とはいえ、そんなことがありえるのだろうか?
神子はまだ少女であり、同年代の子供がいないこの環境はストレスになるようだ。仕方がないので、娘を呼び寄せ、神子の相手をさせることにする。
準備は順調だ。