ある作戦計画参加者の手記(4)

『シ号計画』

もうじき本番が行われるらしい。本番がなんなのかはよくわからないけれど、まあ、私を神様にしようという実験なんだから、そういうことなんだろう。
真子は実験動物の私にとてもよくしてくれている。それが時々、心苦しい。こんな実験場ではなく、普通の人たちのように出会えていたならと思わずにはいられない。
それもこれも、ここに来るまでは考えもしなかったことだ。情操教育、だか情緒教育、だかの一環で、人間というものについていろいろ勉強させられた。その大半は読書で、本から得た知識しかない私にとって、生身で接することのできる真子の存在は貴重であり偉大だった。
私の心は、真子と出会ってから生まれた。真子は心無い私にも分け隔てなく接してくれた。どれほど感謝してもし足りない。私は真子になにもできないというのに。
だから私は、彼女のためなら死ねると思う。彼女のためにも死ねないと思う。よくわからない矛盾だけれど、それがいまの正直な気持ちだ。
死について考えるのは初めてのことである。恐ろしいようでいて、どことなく懐かしい気もする。
私はここに来るまでは死人同然だった。自分でなにもしなくてもいい生活、それは裏を返せば、何も与えられることのない生活だった。私はただ、生まれてしまったというだけの理由で、そのまま朽ちていくことを義務付けられていた。
生まれてきてはいけなかったらしいということを知ったのも、ここに来てからである。
生まれてきたお陰で真子と出会うことが出来た。いまはそれに感謝している。たとえ誰に望まれなかったのだとしても、真子だけは私を望んでくれる。そう思える。
彼女に出会えて幸福だ。私は彼女から生きる勇気をもらった。
だからこんな実験などさっさと成功させてやらなければならない。私は私を捨てる気はない。たとえ神になったとしても、私は私だ。