ある作戦計画参加者の手記(5)

『シ号計画』

実験は失敗した。娘は死に、神子は神とは呼べない存在に成り果ててしまった。
悪念が渦巻いていたせいだと陰陽部の結界担当者はしきりに喚いていた。だからなんだというのだ。実験が失敗する前に気づいていたのでなければ、なにが原因であっても意味などない。
神化までは成功した。そのための神守島であり、そのための神域というシチュエーションだ。ここにはどういうわけか、自然界を流れるエーテルが"溜まる"性質があるらしく、そのエネルギーを踏み台にして、神化を行うのが当初の計画だった。
何度も言う。神化は成功した。だがその先がまずかった。
神化の触媒となったエーテルに、陰陽部の言うことをそのまま信じるなら悪念とやらが混ざっていた。言い換えれば怨念になるのだろうか。そういった禍々しい想念によって、神化は一気に邪神化に繋がった。
後は言わずもがなだ。軍は失敗した神子を処分するために発砲し、神子の傍に控えていた娘は死んだ。
邪神が暴れ始めたのは、娘が死んでからのことである。それまでは、霊感などというものに縁のない私でもわかるほどの薄気味悪い気配を垂れ流していただけだというのに、娘が死んだ直後、軍への攻撃を開始した。
もっともそれは、タイミングとしては微妙なところがある。攻撃されたから反撃しただけなのかもしれない。
しかし私は、科学者としてはあるまじきことかもしれないが、娘の存在こそが邪神化の最後の一線を抑えていたものなのではないだろうかと思う。
神子と娘は仲がよかった。いずれ別れが来るのだからと、柄にもない忠告をしたほどだ。だが娘は頑としてそれを聞き入れなかった。あの子は、優しい子だった。神子の境遇に同情もしていたのだろう。神子が死んだら私も死ぬ、だから神子は死なない、そう言って笑っていた。
邪神化した神子は陰陽部の機転により封印された。封印することが可能だった時点で、すでにエーテル生命体とでも呼ぶべき存在になっていたことは間違いない。軍には十数名の死傷者が出た。私は責任を取らされるだろう。
だが、この研究で得たデータは無駄にはならない。神化のプロセスを詳細に記録したこのデータがあれば、兵器への転用も可能となるだろう。
それこそ、神化によって発生する膨大なエーテルエネルギーを応用することも……