この朽ちたる身が願わずにはいられずに(6)

 そうしたければそうすればいいと、言うのは簡単だったが。
「言えるはずもない、か」
 奇特な若造もいるものだとの感慨を噛み締めながら、ヴィヴリオは一人独白する。
 いま基地で起こっている数々の障害の解決において、鎮圧を任せて欲しい、と言ってきたのだ。
 それは、限りなく状況を理解した将校の意見であって、言ったのがたかが戦車の乗り手でなければ一も二もなく頷いただろうことは間違いなかったが、立場が立場だ、なかなかそういうわけにもいかない。
 考えておこう、とだけ答えて、退出させはしたものの、その冷静な眼差しは、ヴィヴリオ自身の思惑はどうあれ、そうならざるをえないと告げていた。
 それはそうだろう、と思う。この茶番劇の終幕は、天使兵によって飾られるに違いないのだから。だからそっちは自分に任せろ、とあの少年は言った。だからそれ以外の部分はあんたの責任だ、と暗に告げていたのだ。
 見透かされている、などという思いを抱いたのは久しぶりのことである。そしてあんな小僧にまで見透かされてしまうほど、身動きの取れない自分の立場を疎ましく思う。
 自分がここにいることが彼らの害になるしかないとわかっているというのに。
 天使兵がこの基地を襲撃するのは、なにも偶然ではない。前線にある、たしかにそれも理由の一因ではあろうが、自分に流れる天使の血が、非論理的な理由によって彼らを呼び寄せているのだということはわかっていた。
 大佐の地位を与えられ、シュネルギアの運用を任されるにたる代償がそれだ。他の連中が安心して惰眠を貪るための人柱に与えられたおもちゃ。それがこの瑞穂基地とシュネルギア部隊の実態だった。
 それはそれで、問題があるわけでもない。そうでもしなければ自分が大佐の地位を得られたとも思わないし、あれに対抗するための兵器を開発できたとも思えない。そうしなければ望みを叶えられず、生きている価値すらも失ってしまうのだから。
 だが、辛いな、と思うことがないわけではない。いくら自らの願いのためだとはいえ、戦場に子供を送り込み、彼らが時には殺され、時には敵となり、時には殺さなければならないのだから、なんと因果な望みを抱いてしまったのかと泣きたくなることだってある。
 制帽を脱ぎ、あの頃よりも伸びた髪を解き放つ。窓際に立ち、忍び寄る妄執に蓋をしながら、己の正義を振り返る。
 答えなどどこにもなく、ただ惨めで哀れな自分だけが窓に映っていた。