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この朽ちたる身が願わずにはいられずに(13)

「よく来たな」 独居房に面会に来た二人組を見て、私は苦笑を隠すことができなかった。 「暇してるかなと思ってさ。来てみた」 篠宮秋は、相変わらずなにを考えてるのかよくわからない顔でそこに立っていた。 独居房、と言ったところで、たかが前線基地にそ…

この朽ちたる身が願わずにはいられずに

とりあえず終了、ということで。 長かったというか、まあ、こんなもんだろう、というところでしょうか。 このSSはいずれシナリオに化けます。その時はタイトルも変わりますが。 どんなシナリオになるのか……それはシナリオが出来たときのお楽しみ、ということ…

この朽ちたる身が願わずにはいられずに(12)

夢を見ていた、と、そう思った。 機械の体でも、頭が生身だと夢を見るのか、と、そう思った。 でも、目が覚めてみて、初めてそれが夢だったと気づくのなら、夢と現実の境界はどれほどのものなのだろうか。 現実と呼ばれるものは、単なる覚めない夢なのかもし…

この朽ちたる身が願わずにはいられずに(11)

「あの人が捕まったって話、聞いた?」 いつものハンガーの風景に、異物が混じった。自分で言っておきながらそう感じる言葉だった。 所在なげにシュネルギアを見上げて、パイプ椅子に座っている。よくもここまで壊したもんだと感心しながら。 「まあ、指導教…

この朽ちたる身が願わずにはいられずに(10B)

「あなたが憎かったなら、殺さなかったでしょう。私はあなたが妬ましくて殺すんだ」 ヴィヴリオの置かれている状況、という意味でなら、私はよく理解している。理解しているつもりだ。作戦目標のことを執着的に調査することこそが、成功率を引き上げる。 そ…

この朽ちたる身が願わずにはいられずに(10A)

「貴様が裏切り者だったのか」 冷めた眼差しでヴィヴリオ大佐がつぶやく。まるでこうなることを見越していたかのように。 「最初から、スパイでしたよ。裏切りなんてとんでもない」 くわえた煙草に火は点けず、右手に構えた拳銃を大佐の眉間に向ける。 「ヤ…

この朽ちたる身が願わずにはいられずに(9)

暗闇に一人佇んでいる。 そこには何もなく、誰もいない。踏みしめているはずの地面ですら、疑った次の瞬間には消えてしまいかねない朧さしか伝えてはこない。 ここはどこだろう、と、ぼんやりと考える。 自分は死んだのだろうか。死後の世界、なんてものを信…

この朽ちたる身が願わずにはいられずに(8)

「まったくもうなんなのアレは!!」 鈴音はそう怒るだろうと思ったので、鈴蘭苺はなんとも言えず、苦笑いを浮かべるしかなかった。 「何様のつもりなのかしらね! まあヴィヴリオ大佐直属の完全機械化兵様なんでしょうけど! だからってやっていいことと悪…

この朽ちたる身が願わずにはいられずに(7)

完全機械化兵の駆るフライングユニットとの戦闘訓練は、そう珍しいものではない。一般の戦闘機ではシュネルギアの機動にはついてこれず、まともな訓練にならない以上、性能としては唯一互角以上のフライングユニットが相手になることは必然とも言えた。 シュ…

この朽ちたる身が願わずにはいられずに(6)

そうしたければそうすればいいと、言うのは簡単だったが。 「言えるはずもない、か」 奇特な若造もいるものだとの感慨を噛み締めながら、ヴィヴリオは一人独白する。 いま基地で起こっている数々の障害の解決において、鎮圧を任せて欲しい、と言ってきたのだ…

この朽ちたる身が願わずにはいられずに(5)

このタイミングで出頭命令か、と、自らの身の胡乱さを理解している加賀見節子は、胸中でのみ嘆息を吐いて、ヴィヴリオ大佐の執務室の扉を叩いた。 合衆国の工作員が潜入している……基地ではそんな噂が蔓延している。出撃機で続発する故障、基地施設の不調、個…

この朽ちたる身が願わずにはいられずに(4)

「命令だ。裏切り者を特定しろ」 ヴィヴリオ大佐の冷静な声が、天上の音楽のように静かに響く。惜しむらくはその言葉の意味するところが不明な点だが、そんなものとは関係なしに、ただ大佐の傍にいることができるだけで、桜花は満足だった。 「特定、ですか…

この朽ちたる身が願わずにはいられずに(3)

「故障? また?」 また? の部分に隠し切れぬ不快感を滲ませた篠宮鈴音の声に、思わず顔を上げていた。 「また、って言いたいのはこっちなんだがな」 頭を掻きながら怒りをこらえた様子のパイロットが答える。確かに整備はパイロットの仕事ではないし、故障…

この朽ちたる身が願わずにはいられずに(2)

ただ一つだけ、自分にも、ただ一つだけ言えることがあるのだと、彼女は確信していた。 大佐に拾われ、命を救われ、生きる目標も死ぬ目標すら与えられた彼女にとって、大佐こそがすべてで、大佐以外の何物も意味など持てなかったからこそ、彼女はようやくその…

この朽ちたる身が願わずにはいられずに(0)

登場人物紹介*1 篠宮秋 http://trpg.giza10.net/angear/data/chara/pc_aki.php桜花 玖番弐号 http://trpg.giza10.net/angear/data/chara/pc_ouka.php加賀見節子 http://trpg.giza10.net/angear/data/chara/pc_setuko.php 追記 まずないとは思いますけど、断…

この朽ちたる身が願わずにはいられずに(1)

戦争は、戦争だ。胸中でそう一人ごちて、一際大きく煙草を吸い込む。肺一杯に広がるそれを感じながら、初めて煙草を吸った時のむせるような感覚とはまったく違うことに一抹の寂しさを覚えつつ、彼女は深々と息を吐き出した。 初めて煙草を吸ったのも戦場だっ…