(12)

 そうすることが正しい、と言われれば、そうなのか、とは思う。
「いやいや、でも本当にそういう問題か?」
 どうにも疑念が払拭できない。説得者の素性を考えれば当然のことなのだが、その言葉には(それこそ胡散臭いまでの)説得力があるのも事実だった。
 曰く、我々は男である。
「たまの休暇、たまの旅行、たまの温泉……三拍子揃った状態で、覗かないほうが失礼だぞ?」
 腰にタオルを巻きつけて、大威張りに威張っている経堂一矢は、罪の意識が欠片も感じられない表情で言い切った。そうか、そういうものなのか、と思ってしまう。
「例えばだ。いま俺たちはあの断崖絶壁を越えようとしている。しかしその向こうでは、彼女達もまたその壁を越えようとしているんだ」
 男湯と女湯を隔てる竹垣を指差す。土台部分からして高さが段違いになっているので、その高さは並大抵のものではない。
 あれを越えるのだ、と一矢は言った。冗談かと思ったらまじだった。
「まじでか」
「ああ。まじでだ。思春期の若人が異性の体に興味がないわけがない……男であれ女であれ」
 なるほど、確かに説得力がある気がする。思春期という言葉を免罪符にすべてが許容されそうな気すらする。若さは暴走するものだと偉い人も言っていた。なんか小説とか書く偉い人だ。
「だが、女どもはその特権を駆使し、あのような高みからこっちを覗き放題だ。これはいかん。不平等だ。我々は断固として男女差別主義者と戦い、これに勝利しなければならない」
「なるほど、それで……覗くのか」
「ああ、そうだ。覗くんだ」
 ごくり、と生唾を飲み込む。カグヤの裸、と一瞬考えただけで、頭がくらっときた。やばい。これは強烈だ。
「女が特権によって若さを満足させるというのなら、我ら男は実力を持ってこれを満足させる。それが正しい男女平等というものじゃないか」
 なるほど、説得力がある。お互い満足している状態であることが正しい姿であるのに、いまは一方的に女子だけが満足した状態にあるのなら、この不均衡は是正されなければならない。
 細かいことはいい裸が見たい。
「わかってくれたようだな、同志和音」
「ああ、同志一矢」
 がっしりと握手を交わす。その目には燃える好奇心しかない。
 少し離れた湯船では、篠宮秋が湯につかって天を仰いでいた。付き合っても付き合わなくても同罪にされるなら、付き合ったほうが得なんじゃないかなあとか考えながら。