(11)

「神様は人間が嫌いだから人間を作った、という話。信じる?」
「信じるもなにも。それならなんでわざわざ作ったのさ?」
「理由その一、神様は全知全能だから、あまりにもなんでも思い通りに出来ることに飽きてしまって、思い通りにならないものを作りたかった」
「なんでも思い通りに出来る神様が思い通りに出来ないものを作れるの?」
「理由その二、神様は人間で、全知全能でもなんでもなくて、ただ仲間が欲しかったから人間を作った」
「嫌いだからって話と矛盾しない?」
「理由その三、神様は自分が救われることのない存在だから救われることのない世界と人間を作った」
「そりゃもう喜劇でしょ」
「真説か偽説かを問わなければ、神様の目的なんていくらでも作れる。現実が曖昧で適当だから、こじつけようと思えばいくらでもこじつけができるもの」
「で、実際のところはどうなの?」
「さあ。私は神様ではないし。神様になりたいと思ったこともないからわからないわ」
「……あなたが?」
「それ、どういう意味?」
「だって、神子様なんでしょ?」
「まあ、そう呼ばれてるし、そうなるみたいだけど。別に私が望んだわけではないしね」
「そうなんだ」
「そうなのよ。困ったものよね。私はこれでも小市民的な生活が好きなんだけど」
「似合わないけど」
「好き嫌いなんてそんなものじゃない。似合うから好き、似合わないから嫌い、じゃ新しい世界からどんどん隔絶していくだけだし」
「まあ、それはそうかもだけど」
「私はね、贄なの」
「にえ? 生贄の贄?」
「そう。世界中の人が幸せになるためにって、そのための礎として神様にならなきゃいけない。そんなもの、生贄でしょう? 神様という餌をあげるから、大人しく生贄になりなさいってだけなんだから」
「イヤ?」
「ええ。別に好んで世界に仇なそうとは思わないけど、見知らぬ誰かのために自分の人生を捨てられるほど聖人君子でもないから」
「じゃあ、逃げる?」
「それもいいかもしれないわね」
「諦めてるんだ」
「どうもね、その辺、自分でも難しいんだけど。私は好んで世界に仇なそうとは思わないから、私が神様にならなきゃ世界に仇なすことが決定事項になっているなら、じゃあしょうがないか、とは思うのよ」
「難しいね」
「本当に。……もう少し早く、あなたに出会っていれば違ったのかもしれないけど」
「まだ遅くはないかもよ?」
「そうね。そういうifは素敵ね」