(22)

 なぜかはわからないが、その少女にはよく話しかけられた。
 いま思えば、少女もまた集団には適合できなかったから、孤立した人間同士で群れるという矛盾を実行しただけだったのかもしれない。
 孤児院という環境の中にも、派閥はある。そういう環境だからこその派閥なのかもしれない。外に敵がいるような環境だと、結束はより強いものになる。……なにが敵なのか、という話もあるが、自分が学校の連中に苛められていたように、孤児院の中ですら、異質なものを弾き出そうとする動きはあったのだ。
 弾き出される前に自ら孤立した。自分は、孤児院では過去がないことを理由に忌避されていた(だからこそ学校で苛められたときもそれが原因だと思ったわけだが)。少女は……なぜ孤立していたのか、実はよくわかっていない。
 ともあれ。どこか抜けたところのあるその少女に頻繁に話しかけられるうちに、それに慣れていった。何事にも慣れるものらしいが、こんな自分が、傍に他人がいることに慣れたのだから、それはもう奇跡的とすら思えるほどの少女の努力の結果でしかない。
 少女自身がどう思っていたかは、結局定かではないが。年は少女のほうが一つか二つ下だったはずだから、本来なら妹のようなものだったはずなのに、扱いとしては自分が弟だったように思う。そういうものを許してしまう雰囲気が、少女にはあった。
 あの少女と一緒に過ごした時間が、もっとも平穏な時間だった。学年は違ったが、登下校は一緒にしていたし、孤児院にいる時も、ほとんど二人で過ごしていた。
 しかし、別れの時が来た。少女は裕福な家庭に引き取られることになった。少女は最後までそれを拒否していたが、最終的には引き取られていくことになった。院長がどうにかして説得したらしい。自分は賛成したいはずもなかったから、特になにも言いはしなかった。


 別れの日。子供じみた、本当に子供じみた約束だとは思ったが、大人になったら迎えに行くと、そして結婚しようと、そんな約束をした。
 約束の時は永遠に来ないことも知らずに。