(25)

「なぜあのような完全機械化兵を使うのですか?」
 作戦終了後、単刀直入に切り出したのは、御前静中佐である。
「友軍を無視して単独で天使兵の群れに突入し、あまつさえ味方ごと撃墜しかねない方法で殲滅した。戦果は認めましょう。それは揺るがない事実だ。しかし、他の方法がいくらでもあったはずでは?」
 自分の立案した作戦行動をことごとく無視されたせいか、語気が荒い。もちろんそれだけではなく、部下が危ない目に合わされたことも関係しているのだろう。
「『お前が私のものではないことをお前だけが知らないのなら、それは喜劇だ』」
「……? なんの話ですか?」
 答えるヴィヴリオ大佐の言葉は謎めいていて、さすがの静かも当惑する。
「アレの開発者が遺した言葉だ。アレはそもそもがそういう"兵器"だ。無条件に暴走するという意味ではないぞ? 自らの意志を持った兵士として、最大限誰も傷つかぬ方法を選んだということだ」
 溜め息を吐くように、揶揄するように、からかうように、少しだけ微笑む。
「"結果、誰も死ななければそれでいい"という判断ロジックを持っているということですか」
「そういうことだ。アレには"命令無視"などという高等な概念はない。最大効率を引き出せない作戦は、立案者の無能と判断するだろう」
 それは、そればかりは痛切な皮肉となって、御前中佐を挑発した。
「そんなものを使う軍隊がどこにある!」
「ここにある。使えるものならなんでも使わねばならない軍隊が、ここにな」
 確かに、戦力として見た場合、その圧倒的な能力は捨てがたい。完璧とさえ称したくなる。
 だが、だからといってそれが独走していいなどということにはならない。軍隊はそもそもそういう発想を持ってはならない。
 御前中佐は、ここはイビツなのだということを、その時初めて意識した。
「……アレについての責任はすべて私が取る。文句があるなら私が聞こう」
 気だるげに答えて、ヴィヴリオ大佐は御前中佐の言葉を待った。
 言うべきことも言いたいことも山ほどあったが、なにを言ってもこの人には通じないと悟った御前中佐は、なにも言わずにただ、拳を握り締めた。