(27−5)
必要のないものは、どうしたところで必要がない。
「それでもお前たちが僕たちについてくるというなら、それはお前たちの勝手だ」
捨てられた子犬のような、思わず哀れんでしまいたくなるような表情で、ギアドライバーとナビゲーターのコンビは息を飲んだ。
「あんたたちにそんだけの根性があるなら認めてあげるって言ってんのよ、このバカは」
ヒルトがわざとらしくわかりやすい注釈を付け加える。
「僕たちは反逆者だ。そうは思っていない連中がいたとしても、その事実だけは変わらない。お前たちにそうするだけの意志があるなら、一緒に来い」
勧誘、などというバカバカしい役目を押し付けられて、自分になにをしろと言うことなのかいぶかったが、勧誘する相手を見てアイツがなにを考えていたのか得心した。
まったく、趣味が悪い。いまさらこの僕から逃げ場を奪おうとするなんて。
「教官は、俺たちが必要だ、ってことでいいのかな?」
飯島が自信なげに問い返してくる。その背後に陰気に立ち尽くしている花村の表情には、迷いが一切ない。この二人は、こういうバランスなんだろう。
飯島と花村の二人は、研修時代に教育を担当したことがある。完全機械化兵が人間のギアドライバーの教官をした、などというふざけたことがまかり通ったと考えると恐ろしい話だが、事実、そういう機会があったのだからしょうがない。
少なからず、思うところはある。それほど大きな感情はない。
「教官が、俺たちが必要で、俺たちに命令するのが教官だ、ってことなら、俺らは一緒に行くぜ」
それは飯島の決断だ。それでいて花村の決断も含んでいる。花村はその決断に異を唱えるでもなく、うっそりと僕を見つめている。
「わたしが言うことじゃないけど、死にに行くようなもんよ?」
このクーデターは鎮圧されるだろう。奇跡のような逆転劇が起こらない限り、それは間違いない。単純な戦力の差、押さえている拠点の数、何もかもが足りないのだから、その結論が覆ることはない。
正規軍が躍起になって攻めてこないのがいい証拠だ。向こうにしてみれば、消耗戦を仕掛けるだけで凌げる問題なのだ。
「俺たちは軍人だ。軍人になった。けど、なにを信じるかまで強制される覚えはないし、されたくもない」
「……教官を信じないのは、自分たちを信じないようなもの……」
「そういうこった。俺たちは教官の言うことなら信じる」
どう、言葉にすればいいんだろう。
バカなことを言うなと殴りつけてやりたかった。
勝手なことを言うなと殴りつけてやりたかった。
そんなもののために味方だった連中を殺せるのかと叱りつけたかった。
それを言ったら、自分はどうなんだ、と思った。自分だって同じことだ。勝ち目のない戦に望んだのは、戦の勝敗ではないところに、自分の目的があったからだ。
「……親不孝者め」
搾り出せた言葉は、そんな場違いなものだった。
「軍人になった時点で諦められてるさ」
さばさばと言って、飯島は肩をすくめた。
「で、どうすりゃいいんだ?」
人生に関わる決断をした直後だというのに、なにも変わらない。
それが人間の強さなのだろうかと思いながら、当面の目的を説明し始めた。