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 特殊部隊を抜け、瑞穂基地に配属されることが決まった。正式な任官前に基地の情報を調べ上げ、現地に潜り込んだのは、敵情視察にも似た現地確認にしか過ぎないと思っていたが……いまにして思えば、焦燥に背中を押されてのことだったのかもしれない。
 そこには、ある完全機械化兵がいると聞いていた。基地司令の子飼いで、常時は基地司令の身辺警護を担い、現時点では使い捨てに近い完全機械化兵の中では驚異的な戦闘時間を重ねている、開発者殺しの異端児。
 親殺しという、その一点でのみ、共通点があった。親近感を感じたわけではなく、そいつもまた自分のように戦闘兵器として造り上げられたのだろう、と思った。親殺しなどという要素は、ただの通過儀礼にすぎないのだろう、と。
 実物を見て驚いた。そいつは笑っていたのだ。基地司令と一緒にいる時は完全機械化兵らしい完全機械化兵をしているというのに、身辺警護を離れ、別の完全機械化兵と一緒にいる時は、そいつは歴戦の勇士ではなく、ただの人間として笑っていた。
 屈辱だ、と思った。兵器として造り上げられたはずの完全機械化兵の分際で、なぜ自分よりも人間らしく笑っているのだ。人間として生まれたはずの自分はただの一度も笑ったことなどないというのに、なぜ機械人形が笑っているのだ。
 それは矛盾でもあったし、混乱でもあった。この世の中、そう簡単に割り切れるものばかりではないし、単純な見方だけで認識できるわけでもないことは特殊部隊時代に嫌というほど思い知らされたが、根本から矛盾している存在がいるとは、夢にも思わなかった。
 強烈な憎悪にも似た感情が、その時初めて芽生えた。それが人間として初めて認識した感情であることにも気づかずに、ただその機械人形をめちゃくちゃにしてやりたいと思った。
 その完全機械化兵の名を、桜花と言った。