(29−7)


 それは無自覚な兵器だった。
 自らの望みを何一つ理解していなかった。
 それに仮初の望みを突きつけたとき、望みがないのは自分も同じであることに気づいた。
 生きることの意味が、わからなくなった。
 
 結局自分は、なにをしたいのだろう。瑞穂基地を占拠し、仮初の住まいを得て、そんなことを思う。
 あいつなら、答えてくれると思った。機械人形の分際で自分よりも人間らしいあいつなら、機械人形よりも機械らしい自分の疑問にも答えられるんじゃないかと、そう思った。
 現実はそんなに甘くなかった。機械人形の癖に、人間に抱かれることですら基本機能の一つでしかない癖に、哀れみと同情でそれを受け入れたあいつは、ただ無言でされるがままになった。
 違う。そんなものを望んだわけじゃない。でもなにを望んだのかがわからない。
 思考が同じところをぐるぐると回る。自分の理解の境界をうろつきまわるばかりで、その先にある想像もつかないものにどう触れればいいのかもわからずに。
 数度、会話して気づいた。あいつにヴィヴリオは殺せない。あいつにはヴィヴリオを殺すだけの動機がない。生きていることに対する憎悪はあっても、生かされていることに対する憎悪など欠片もないのだから、殺せるはずがない。
 気づいていないだけなのだ。自らが生かされていることに、どれだけの感謝を感じているのかに。
 だから、滑稽なのだ。機械人形の分際で、自ら機械人形らしく振舞おうとするがあまり、それこそが人間的な情動なのだと気づくこともない。
 一方の自分は、人間らしく振舞おうとするあまり、それこそが非人間的な動機なのだということに気づかされてしまった。
 憧れる。自分にはそれがないからこそ。
 だったら、気づけばいいんだ、と捨て鉢な気持ちも湧いた。ギアドライバーの訓練教官をすらしていたあいつは、それの意味するところをいまだに理解すらしていないだろうが、そいつらをこの戦争に引きずりこめば、嫌でも気づくに違いないのだから。
 人間であることを否定しようとする奴に人間であることを突きつける。言ってみれば悪趣味な、それでいて切実な感情は、結局自分はなにがしたいのかという疑問を強くするだけだった。