(5)

「由々しき事態じゃ……」
 薄暗い部屋。扉は閉められ、窓も閉め切り、明かりとなるのは蝋燭だけ、という状況なのだから、薄暗くて当然である。
 よくわからないが、よくわからないなりに雰囲気たっぷりの部屋で、どこから調達してきたものか、フード付きの黒いマントを被った正体不明の少女が、仰々しい声を作ろうとして失敗しながらそんなことを言った。
「ふむ。不味いか」
 問い返したのは、こんな売れない占い小屋にいるよりは、しっとりとしたバーで一人グラスを揺らしてるほうが似合いそうな美人だった。ちなみにグラスを揺らすならワインだろうからバーでそんなことをすることはまずない。イメージの問題である。
「よくない。よくないぞよ」
 少女の前には水晶玉、があるわけではなく。数枚の写真が並べられていた。
 写っているのは、桐生渚と呼ばれる完全機械化兵と、弓奈七式と呼ばれる完全機械化兵だ。
 仲良く笑い合っている、というだけの、なんの変哲もない写真ではあるが。なにかよくないらしい。
「二人は出来てるー! そしてしてるー!」
 少女はくわっとばかりに目を見開き、大仰な身振りで両手を振り上げ、なにかを(なにかの危機感を)煽るようなポーズを取ったが、向き合った美人はそれには反応せず、写真を見下ろすだけだった。
「完全機械化兵はターゲット外、だが……桐生は興味がある」
 舌なめずりしそうな笑顔で写真の中の桐生をそっと指先で撫でる。思わずぞくりとしたのは遠方にいる本人ばかりではなく、目の前にいる少女もだった。
「お主も因果なものよのう。なぜにあたら若い女子ばかりを求めるか」
 少女は、マントを脱いで溜め息を吐く。演出のためにこんな暑苦しい格好をするのにも飽きたということだろう。
 それにしてもお主って。美人と少女の年齢差は普通に見て倍はあるはずだが。
「男は好かん。あれは女を裏切る。ブスもいかん。あれは人類を滅ぼす」
「……すごい飛躍した理論じゃな」
 わからんでもないが、と同意する少女。お前らの会話のおかしさに早く気づいてください。
「美しい少女を狩り集め、保護する。我がハーレム計画は完璧だ」
「業が深いのう」
 うむうむと頷くのも、基地一番の愛の伝道師を自認する変態である。つまりこれは変態同士の会話だ。
「まあ、よい。わらわは弓奈が手に入ればそれでよいのじゃ」
 ほほほ、と上品に笑って、少女は美人との合意点を強調する。
「……数年早い、か」
 まじまじと少女を眺めて、美人は嘆息する。出会う度にこれなのだから、少女にしても慣れてもよさそうなものだが、毎回悪寒が走るのを止められない。反射反応だからこればかりは仕方がない。
「お前のための席は優先的に空けておいてやろう」
 言いながら立ち上がる。情報交換は完了、ということだ。今回は美人のほうから少女のほうに情報提供を行ったが(写真を撮影したのは他でもないこの美人だ)、場合によっては少女のほうから情報提供がある。目的は同じだが目標があまり一致しないので、とりあえず共同戦線を張っていた。
 だがいずれ、少女自身が美人のターゲットになる日が来る。それもまた、わらわの美しさのせいよのう、と少女が陶酔している間に、美人は部屋を抜け出ていた。
「せわしないのう」
 少女、ラビはかりかりと頭を掻いて、美人、御前静の後姿を思い出す。
 いずれお主もわらわのものよと、強かな変態は一人頷き、カーテンを開け放った。