(18)

 後ろから撃たれた瞬間、すべてを理解した。
 撃たれた衝撃で壁に叩きつけられる。防弾着のお陰で貫通こそしなかったが、肋骨が数本折れた。至近距離で散弾銃並の威力の拳銃……機械化兵でもなければ撃った者の肩が外れるだろう。
 壁を背に、体を起こす。苦痛のあまり、うまく動けない。脈拍は一気に上がり、息も苦しくなってきた。
「お前が……裏切り者か」
 不思議なことに、まさか、とは思わなかった。ああ、なるほど、と納得しただけだ。
「スリーパーを裏切り者というのなら」
 淡々と答える。その瞳に感情はない。いついかなる時も冷徹だった、その眼差しを睨み据え、自らの甘さを呪う。なるほど、確かにそうだろう。こいつほど怪しい奴はいなかったというのに、同類としての哀れみが先に立って目を曇らせていたというのなら、それは私の責であって、裏切り者の罪ではない。
「たかが前線基地を壊滅させて……どうするつもりだ?」
 そうでなくても、いまこの基地ではテロリストが暗躍している。基地司令は暗殺され、ギアドライバーも数名が犠牲になっていた。
 その上であえて、自分のような指揮官まで殺すのは、ではなんのためだ、と考えた場合、基地壊滅ぐらいしか思いつかなかった。
 だが、しかし、なぜ。なんのためにこんな方法で。
「意味はない。若干のカモフラージュだ。ギアドライバーとナビゲーターだけ殺される、というのはおかしいだろう? だから、全部壊してしまったほうがいい」
 狂ってる。たかがそれだけの理由でこれだけの暴虐を行うなど、正気とは思えない。
 基地司令を失って指揮系統の混乱している基地内に天使兵を放ち、さらなる混乱を煽る。その傍らでギアドライバーを殺し、ナビゲーターを殺して回る。そこまではいい。そこまではわかった。
 シュネルギアという最後の希望を奪うため、と言われたほうがまだましだ。地方基地に配備している連中を呼び寄せれば穴埋め可能だからだ。
 だが、それが目的ではないとなれば、今後、打てる手がない。基地が丸ごと壊滅していれば、誰だって基地の破壊が目的だったんだと思うが、それがギアドライバーの暗殺が目的だったなどと思うやつはいない。
 こいつらはいつでも好きなタイミングで基地を襲い、ギアドライバーを殺し続けるだろう。その一方で、秘密裏にギアドライバーの暗殺を行うはずだ。基地壊滅のほうが本来難しいはずなのに、それすらもカモフラージュにするとは、どうしてそこまでしなければならないのか。
「それでも生き延びる者もいるだろう。それが救世主だ」
 救世主。まさかそんなものを信じているのか。
 そう笑い飛ばしたかったが、その表情を見て押し黙る。相も変わらずの無表情。ということはつまり、こいつは、あるいはこいつらは、それを信じているということだ。
 そうであるなら、真実がどうあれ、意味をなさない。救世主なんて都合のいいものはいない、と考えるよりは、それがいると考えたがる気持ちも、わからないでもなかった。
「冥土の土産は楽しんだか?」
 そう言いながら、スパイは静かに銃を構えた。
「最後に一つ。お前、合衆国の手の者ではないな?」
 スパイは答えず、薄く笑って引き金を引いた。