(20)

「なるほど。それは私にとって簡単なことだった。私は君達を殺さずに殺すことができる。だが、それが何によって支えられているのか? 君達はそれを知らないから、気軽に私を責める」
「貴様のやったことが簡単だとっ!?」
「簡単さ。人も家畜もなにも変わらない。私にしてみれば、それが喋ろうが喋るまいが同じことだ。実験に有意義であるのなら昆虫よろしくピン刺しの標本にもするし、ホルマリンに浸して保存もする。そうでなければ殺す必要もない」
「必要だったら殺していいってことか!」
「君は馬鹿か? 殺していいの悪いの、そんなことを決めるのは私でも君でもなかろう。そんなことで私を責めたいのなら、法律にでも泣きついたらどうだ? きっと君が望む解決をしてくれるだろう」
「……っ! 馬鹿にしやがってっ!!」
「何度も言うが、君が私を馬鹿にしているのだ。私を君の尺度で測ろうとするな。バカバカしい。価値観のまったく交わらない人間がいるということをいい加減理解しろ。私は私の研究のためならなんだってする。そういう人間だ」
「外道がっ……!!」
「外道でけっこう。正道が人を殺すこともあれば、外道が人を殺すこともある。そんなものに意味などないよ。君の気休めにはなるかもしれないがね」
「正道が人を殺すだと!?」
「この世には死刑がある。社会常識に著しく反した犯罪者は、息の根を止めてしまえということだ。周囲の人間の安全のためにな。君が言うところの正道に殺される人間だ。なにが間違っている? 死刑になるような犯罪を行ったことか? 死刑になるような犯罪を起こしたものが殺されるのは当然か? 法律は常に正しく誤らないわけだ」
「……っ!!」
「そんなものはない。君が私を裁こうというのなら、君の尺度で私を断罪してみろ。他の価値観に頼るな。君が君の手を汚さずにいようとする限り、私を殺すことなんぞ出来やしないよ」
「……貴様はっ。俺の敵だっ!」
「そう。敵だ。なんだいまさら気付いたのか。私はとっくのとうに知っていたのに。それじゃあ君は、どうやって殺されるのがお望みかな? できる限りそれを叶えてあげようじゃないか。彼女のように、手足をもがれてみるかね?」
「どの口がほざきやがるっ……!」
「君らはね、考えすぎなんだよ。世の中はもっとシンプルだ。私のように、そのためなら他のなにもかもを犠牲にするぐらいのシンプルさを持て。そうでなければ、迷うばかりだぞ」
「説教垂れてんじゃねえっ!」
「説教? 違うな。これはそう、冥土の土産というやつだ。今頃、彼が動き出しているだろうからね」
「仲間がいやがったのかっ!?」
「そう。君もよく知っているだろう? ノーマン・ベイカーだよ」