(27−4)

まだ終わりません。


 幾度かの出撃。
 その都度感じる違和感。
 自分が自分ではないものになっていく感覚。
 いずれ、人間ではなくなる。確信だけが募る日々。
 なにを対処するでもなく、なにを対処したいでもなく、ゆるゆると自分が消えていく感覚は、違和感と同時に居心地の悪さを覚えさせる。
 ふとした瞬間、記憶が飛ぶ。
 過去に思いを馳せると、それは顕著だ。
 人の顔を見ても、誰だか思い出せない。
 親しげに声をかけられても、誰だかわからない。
 苛立ちが募る。
 自分が、自分ではないものになるということ。
 天使と呼ばれる存在になるということ。
 いまならわかる。アリカが死を選んだ理由が。彼女に殺された理由が。
 自分が自分ではなくなる恐怖と戦いながら、その逃れえぬ戦いに終止符を打とうとした時、もっとも自分を見知っている誰かに止めを刺されたいと望むその気持ちは、よくわかる。
 なによりも恐ろしいのは、自分がただ消えていくことだ。死ぬことすら許されず消滅し、自分以外の何者かになっていくことだ。
 だから、せめて、誰かには覚えていてもらいたい。
 だから、せめて、自分を知っている人に殺されたい。
 それを心の気休めにして、消滅の恐怖を紛らわしたい。
 死よりも恐ろしいものがあるとは思わなかった。自分はそれを知っていたはずなのに、それがなんなのかこんなにも理解していなかったことを思い知らされた。
 圧倒的な孤独。完璧な死。魂すらも囚われて、天使の餌になってしまう。
 押しつぶされそうな恐怖の底で、それでもまだ負けないと思う。
 彼女を思い出す度に、自分はまだ大丈夫なんだと思える。
 彼女の笑顔を思い出す度に、心が締め付けられるのは変わらないけれど、愛すること、愛していたこと、それをまだ覚えている自分は、自分だろうと思えた。
 たとえ人ではないものになったとしても、自分はこの気持ちを忘れないだろう。なら、それは自分だ。自分以外の何者でもない。
 一縷の望みに縋りながら、天使を討つ。
 気が付けば、出撃の記憶すらなくなり始めていた。