(28−7)


 葬儀は一ヵ月後だった。
 基地の共同墓地で、数少ない参列者の一人として、俺はその風景を眺めていた。
 真智が泣いている。人前で泣くことをしない真智が、唇をかみ締めて泣いている。その肩を抱くようにしながら、無表情に葬儀の様子を眺めている。
 真智は繭との約束通り、毎日病院を訪れた。一緒に行ったこともあるが、行かなかったことのほうが多い。自分が行ったら、どうしたって険悪にならざるをえないことぐらい、弁えていた。
 真智は死に目には立ち会えなかったという。死の数日前から面会謝絶になっていて、真智は病室に近づくことも許されなかった。
 そこでなにが起こったのかはわからない。だがエーテル中毒というのは、死で終わる病ではない。天使になることが病の終着点なのだから、誰かが引き金を引いたのだということは間違いなかった。
 それなりに詳しい事情という奴は聞いている。だから、それはセラピアだろうと思っている。真智にはそんなことはできないし、俺は呼ばれもしなかったんだから、それぐらいしか残っていない。
 一人で生きて、一人で死んだ。それでは寂しすぎる。真智が寄り添い、セラピアが見取った。それはいずれ、自らが棺に納められる立場になるからこその、強い動機だろう。
 繭はヤシマ人だったので、坊さんが墓の前で経文を上げた。遺体は荼毘に付されたらしいが、どこまで生身が残っていたかは定かではない。一度見せられた繭の素肌は、すでに半ば硬質化していて、なにもかも手遅れだと思わせるのに十分なものだった。
 泣きたいとは思わなかった。その死によって哀惜が惹起されるような関係は、俺たちの間にはなかった。
 むしろ笑ってやりたかった。これで真智はまた俺のものだと、お前なんかには渡さないんだと、大声で笑い飛ばしてやりたかった。
 何も言えず、言いたくもなかった。自然と表情は消えて、神妙な面持ちだけが残った。